相続の規定を約40年ぶりに見直す改正民法が参院で可決、成立
1980年以来の大幅見直しとなった相続に関する法律は、民法の第5編「相続」に規定されています。
時代の流れに合わせて形を変えてきた相続法ですが、1980年の全面見直し以来、改正がなく、高齢化が加速し、家族のあり方が変化していく中で、2015年以降改正議論が進んでいました。
●相続法は家族制度の歴史
・旧民法(家督→かとく→相続)
旧民法では家督制度で、武家の相続が長子単独相続だったため、一般庶民も同様とされた。
直系卑属は超過債務の相続でも放棄できず、家名を継がなくてはならない家のための制度でした。
・日本国憲法による家督相続廃止と法定相続分
1. 1947年改正
配偶者と子→配偶者1/3 子(全員で)2/3
配偶者と父母→配偶者1/2 父母(全員で)1/2
配偶者と兄弟姉妹→配偶者2/3 兄弟姉妹(全員で)1/3
2. 1980年改正
配偶者と子→1/2 子(全員で)1/2
配偶者と父母→2/3 父母(全員で)1/3
配偶者と兄弟姉妹→3/4 兄弟姉妹(全員で)1/4
※1980年改正で兄弟姉妹の子は代襲相続が1代限りに。
●今回の改正の背景は超高齢化社会にあり。
上川陽子法務相は成立に際し記者会見で、「高齢化の進展に対応した大変重要な見直し。
国民への周知を徹底する」と述べています。
その背景には、80歳代、90歳代の相続人が増加し従来に比べ配偶者の生活保障の重要性が
相対的に高まり、子は相対的に弱まっている。
日本の平均寿命は女性より短い男性でも80歳超に伸びており、遺された配偶者は生活を遺産に
頼らざるを得ない状況がある。
また、もう一つの背景には、嫡出子と非嫡出子の相続を巡る最高裁判決とも言われています。
※最高裁判決
2013年9月、最高裁が非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とした当時の相続法を
「法の下の平等に反する」として違憲判決を出して、同年12月に相続分を同等とする法改正が
行われた。
この改正により、非嫡出子が多いほど妻と摘出子の相続分が減り、「配偶者の保護が相対的に下がった」
との問題提起が与党から出ていた。
これにより、配偶者保護が重視され、法制審議会では配偶者の法定相続分を1/2から2/3に
増やす案もありましたが、パブリックコメントなどで反対意見が非常に多かったこともあり
実現には至りませんでした。
改正点のポイントは時代に合わせた改正!!
【相続に関する主な民法の改正】
1.配偶者の居住権を保護する方策
(1)配偶者居住権の新設
(2)配偶者短期居住権の新設
2.遺産分割に関する見直し
(1)長期間婚姻している夫婦間の自宅の贈与を保護
(2)仮払い制度等の創設・要件明確化
3.遺言制度の関する見直し
(1)自筆証書遺言の方式緩和
(2)遺言執行者の権限明確化
(3)法務局における自筆証書遺言保管制度の創設
4.遺留分制度に関する見直し
(1)遺留分の金銭債権化
(2)遺留分算定の持戻しは相続開始前10年間に限定
5.相続人以外の親族の貢献を考慮する方策
介護等に関する特別寄与に金銭請求が可能に
●施行は2019年と20年から!!
施行は公布日(7/13)から1年目以内で、「法務局の自筆証書遺言保険制度」は19年1月13日に、
「配偶者の居住権を保護する方策」は2020年7月13日までに施行法務省のサイトでも
「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について」を案内し、告知に努めてます。
●居住権で配偶者保護を手厚く
残された配偶者の生活を安定させるため、配偶者が自宅に住み続けられる
「配偶者居住権」が新設。これにより生活資金の確保も可能に。
ex)
夫が遺した自宅(評価額2,000万円)と預貯金3,000万円を妻と子(1人)で1/2ずつ分割し、妻が
所有権を得て自宅に住み続けると、預貯金は500万円しか受取れない。遺産分割の選択肢となる
配偶者居住権は売買できない制約があり、評価額は所有権より低くなる。
仮に居住権の評価が1,000万円とすると、受取れる預貯金は1,500万円に増える。
●では、配偶者居住権の評価はどのように。
法務省の発表によると、建物の耐用年数、築年数、法定利率等を考慮して配偶者居住権の消滅
(配偶者の死亡)時点の敷地の価額を算定した上で、現在価値に引き直して評価するようとのこと。
●配偶者居住権の背景には、再婚相手と子の対立も?
子にとっては一次相続で自宅の所有権を相続できるので、二次相続の心配がなくなるというメリット
も考えられますが、居住権を相続した親が介護施設に入り、自宅に住まないケースも想定されます。
今回の改正は再婚などで相続人の関係が複雑化するケースも前提にしています。配偶者居住権が
制定された不動産は売却できないこともあり、慎重な対応が必要です。
全ては、配偶者への自宅贈与を保護するために
長く連れ添った配偶者への保護として、それまでの贈与された自宅は、遺産分割の際に遺産の先渡し
(特別受益)を受けたものとして取り扱わなくてよくなります。
これは遺言で自宅を遺贈された場合も同様です
●遺言制度が使いやすくなる?
まずは遺言書が優先
遺産分割を巡って相続人同士が争う「争族」が増加しています。
円滑な相続実現のためには生前に財産の分配を遺言書で決めておくことです。
民法では、遺言が分割協議に優先すると明記されています。遺言がない場合に初めて、
法定相続のルールを基準に、相続人が分割協議に基づき財産分けをすることになります。
パソコンで作成して法務局に保管
自筆証書遺言書は、公証人がかかわる公正証書遺言と違い、自分で自由に作成できます。
一方、形式不備で無効になるリスクがあり、本人が自宅に保管したり、貸金庫に預けているため、
相続人が存在を知らないことも多い。
そんな遺言がパソコン等で作成の目録、銀行通帳のコピーや不動産の登記簿を目録として添付が可能に。
財産目録に署名押印するため、偽造も防止できる。法務局で形式チェックの上、保管や管理を行うので、
家庭裁判所の検認は不要になるのだ。
しかし、あくまで形式のチェックにとどまるため、中身は本人次第となる。
死亡後すぐに相続人に通知される仕組みを戸籍やマイナンバーと連動したシステムにて検討中とか。
ただし、遺言があれば問題解決ではなく、安易に作成すれば、それ自体争いのタネになるケースも・・・。
●お嫁さんの介護貢献に報いる!?
これまでは、どんなに被相続人の看護や介護に尽くしても、相続人以外の人は相続財産を取得する
ことができませんでした。
が、
今回の改正で、遺産分割は相続人だけで行うとしつつ、相続人に看護、介護に対する金銭請求を
認めるとしました。
遺産分割の手続きが過度に複雑化しないようにと配慮しつつも、看護、介護の貢献度を認める
決定が行われたのでした。
人が生きてる以上、必ずしもどこかで関わりあうことになるだろう相続。
時代背景にそって、今後どのように変化していくのだろうか。